特色ある研究活動の成果
Research

肌の色と質感の知覚メカニズム

肌の色と質感の知覚メカニズム

図1:肌の色相に影響を受ける明るさ知覚:赤みがかった肌(右)の方が黄みがかった肌(左)よりも明るく見える。

溝上教授

溝上 陽子

Yoko Mizokami

工学研究院教授

専門分野:視覚科学、視覚心理物理学、視覚情報処理、色覚、色彩工学

2002年立命館大学大学院理工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。ネバダ大学リノ校博士研究員、千葉大学助手、助教、准教授を経て、2018年より現職。日本照明委員会理事,International Colour Vision Society Director、Color Research and Application誌Associate editor

どのような研究内容か?

 私たちは、顔や肌の色や質感(きめ、シミ・ニキビ・ソバカス等のテクスチャ、くすみ感・つや感等)を瞬時に判断することができます。では、なぜそのような判断ができるのでしょうか?何を手がかりとしているのでしょうか?それらの知覚メカニズムは、まだ少ししか明らかになっていません。
 本研究では、肌の色と質感の見えがどのように決まるのか、という知覚メカニズムを解明しようとしています。視感評価実験の結果と肌の計測データの分析をすることにより、顔の明るさ認識に対する色相の影響、顔色の識別能力、肌の色とテクスチャが肌質感の認識に及ぼす影響、などの課題に取り組んでいます。
 例えば、日本人女性の顔を用いた実験では、明るさを表す指標である明度が等しい場合でも、赤みを帯びた顔は黄みを帯びた顔よりも明るく見えることを示しました。(図1)これは、肌の知覚は特別であり、従来の色彩学の知見が当てはまらないことを意味します。その理由として、肌色特有の色分布特性や肌色変化に適応した知覚メカニズムの存在が考えられます。
 そこで、肌色を構成する主要な色素成分であるメラニン、ヘモグロビンに注目しています。メラニンは日焼け等で増加し、ヘモグロビンは血流の変化で増減します。ヘモグロビン増減、メラニン増減による顔色の変化をシミュレーションして、顔色変化の識別能力を調べる実験を行っています。(図2)現在得られている結果では、赤みが増す方向(ヘモグロビン増加方向)の変化に対して、より敏感であることが示されています。これは、短期的な運動や情動の変化を判断するのに有利なためと考察していますが、さらに検証が必要です。
 また、肌画像、パターン画像、顔画像を用いて、どのような色素斑(シミ)が目立つのかを調べています。(図3, 4)一番目立つのは、やはり大きく濃い色素斑ですが、同じ総面積の場合は小さい色素斑が沢山あるより大きいしみが1つの方が目立つ、同じ色素斑でも顔の位置によって目立ち方が異なる、といった知見も得られつつあります。

何の役に立つ研究なのか?

 肌の色や質感は、人の健康状態、年齢、顔印象、感情などの判断に関わる重要な情報です。私たちの視覚特性は、環境に適応して進化、発達しています。肌の色や質感を認識するためにどのような知覚メカニズムを形成しているのかを調べること自体、非常に面白いと思います。その知覚特性を明らかにすることができれば、肌色の見えを正確に表す色の見えモデルや表色系の構築、さらに、画像、化粧品、医療など多岐にわたる分野での応用にもつながります。

今後の計画は?

 引き続き肌の知覚特性を調べ、その定量化をしていきたいと考えています。また、人種や環境、文化による色分布や色変化、表情の出方、好みなどの違いが顔の色知覚と情動認識に影響するのか、異文化比較にも取り組み始めています。もし環境により肌知覚が異なるならば、知覚メカニズムを明らかにする手がかりになりますし、異文化コミュニケーションにも役立つかもしれません。

関連ウェブサイトへのリンクURL

http://vision-lab.tp.chiba-u.jp

成果を客観的に示す論文や新聞等での掲載の紹介

H. Yoshikawa, K. Kikuchi, H. Yaguchi, Y. Mizokami, and S. Takata: Effect of chromatic components on facial skin whiteness. Color Research & Application 37-4, pp.281-291. (2012)
菊地 久美子, 片桐 千華, 吉川 拓伸, 溝上 陽子, 矢口 博久: 分光測色計による肌色計測と日本人女性の長期的な肌色の変遷. 日本色彩学会誌 40-6, pp.195-205. (2016) *論文奨励賞受賞
濱田 一輝, 溝上 陽子, 菊地 久美子, 矢口 博久, 相津 佳永: 肌画像における肌色の弁別特性. 日本色彩学会誌 42-2, pp.50-58. (2018)

図2:メラニンとヘモグロビンの増減による顔色変化のシミュレーション

図3:色素斑(シミ)の目立ち評価に用いた肌画像とパターン画像の例

図4:顔画像を用いた、色素斑(シミ)の目立ち評価実験結果の例