イオンと電界を利用した、コミュニケーションを阻害しない飛沫/エアロゾル感染対策-異分野融合の感染症対策を四大学連合が学生主体で開発-

2023年10月24日

研究・産学連携

 東京工業大学工学院機械系の神田海都大学院生(研究当時)、同大学科学技術創成研究院未来産業技術研究所の山田哲也助教、栁田保子教授ら、東京医科歯科大学の西村久明助教、倉持仁客員教授、藤原武男教授ら、千葉大学の竹元幸亮大学院生、高橋応明准教授らの研究チームは、イオンと電界を利用して、コロナウイルスを含む飛沫やエアロゾルを回収・遮断できるデバイスを開発した。
 このデバイスはアクリル板パーティションのような音や光の反射がほぼないため、コミュニケーションを阻害しにくい特徴を持つ。そのため、既存のパーティションに代わる新たな飛沫感染対策として、現在も続く新型コロナウイルスへの感染や、新たな感染症の拡大を防ぐ有効な手段となることが期待される。
 新型コロナウイルスは流行初期では未知の感染症であり、異分野が融合した対策が必要であった。東京工業大学、東京医科歯科大学、一橋大学、東京外国語大学が参加する四大学連合では「ポストコロナ社会コンソーシアム」を設立し、異分野融合を取り入れた学生主体で実行可能な新型コロナウイルス対策について議論が行われた。そこで生まれたのが、「帯電した原子や原子団であるイオンと、帯電した物質の電荷に影響を及ぼす電界の働きを利用して異物を集める」という空気清浄機などに使われている仕組みを応用した飛沫やエアロゾルを回収するデバイスのアイデアだ。
 このアイデアをもとに、まず東京工業大学を中心とした学生が、感染予防とコミュニケーションを両立できるデバイスを製作した。続いて、東京医科歯科大学の研究者らを中心として、新型コロナウイルス感染症の患者が入院する病室にデバイスを設置し実証実験を行ったところ、イオンと電界の働きにより、感染リスクが低いと考えられるウイルスの量まで減少できることが示された。
 飛沫感染の防止を目的とした従来のアクリル板などのパーティションは、音と光に干渉しコミュニケーションを妨げるため、新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行後は撤去されつつある。本研究で開発したデバイスでは、空気清浄機などに使われるイオンと電界を応用することで、音と光を透過させながら飛沫やエアロゾルを回収できるため、既存のパーティションよりも円滑なコミュニケーションが期待できる。
 
 本研究成果は、8月26日付の「Scientific Reports」に掲載された。

A) アクリル板パーティションを設置した場合の写真。光の反射によりアクリル板に話者の影が映り、会話相手の顔が見えづらくなっている。
B) 本研究で開発した感染対策デバイスを設置した場合の写真。光の反射がないため影が映らず、会話する相手の顔がクリアに見える。
C) 本研究によるイオンと電界を用いた感染症対策デバイスの模式図。イオナイザーから放出したイオンが飛沫・エアロゾルを帯電させ、
  捕集電極とグラウンドの間に発生した電界が飛沫・エアロゾルを捕集電極に引き寄せる。