鍵は“老化で減るKAT7”? ― iPS細胞由来血小板産生低下のメカニズムを解明―

2025年12月02日

研究・産学連携

■研究の概要
 千葉大学大学院医学研究院の髙山 直也 准教授、Sudip Kumar Paul JSPS外国人特別研究員、陳 思婧 特任助教、江藤 浩之 特任教授(兼 京都大学iPS細胞研究所 教授)らの研究グループは、iPS細胞から作られる血小板前駆細胞(巨核球)を増幅と成熟させることができる細胞株「iPS細胞由来巨核球株(imMKCL)注1) 」を用い、血小板産生能が低下するメカニズムを解明しました。これは、長期培養や培養環境の悪化により細胞が老化すると、リジンアセチル基転移酵素7(KAT7)注2) というタンパク質が低下するために、染色体の安定性が損なわれて免疫反応(cGAS-STING経路注3) )が活性化すること、さらにこの老化した細胞が炎症性物質を放出して同じ培養槽内にいる良い細胞の細胞周期も止めてしまうため、最終的に培養全体で血小板産生が低下するというメカニズムです(図)。さらに、KAT7は細胞が血小板を生み出すために不可欠な細胞周期を維持することで、品質の高い血小板産生に重要な役割を果たすことを見出しました。
 本成果は、iPS細胞由来血小板の大量製造において、細胞老化を早期検出する品質管理指標としてKAT7が有用であることを示しており、再生医療製品の安定供給に貢献することが期待されます。
 この研究成果は、2025年11月13日に国際学術誌Stem Cell Reportsにオンライン掲載されました。

用語解説
注1)iPS細胞由来巨核球株(imMKCL):巨核球は造血幹細胞から作られ、血小板を生み出す細胞。巨核球は成熟すると核分裂はするが細胞分裂はしないという特殊な分裂を行い、大型で多核の細胞になる。imMKCLは、iPS細胞から出来る巨核球に遺伝子導入をすることにより樹立された、増幅と成熟の切り替えが可能な細胞株。
注2)リジンアセチル基転移酵素7 (KAT7):HBO1またはMYST2とも呼ばれるヒストンアセチル基転移酵素。ヒストンH3のリジン14およびヒストンH4のリジン5、8、12をアセチル化することで、染色体の構造や遺伝子発現、DNA複製、DNA修復を制御する。特にセントロメアの機能維持と染色体分配の正確性に重要な役割を果たす。
注3)cGAS-STING経路:細胞質内のDNAを感知する自然免疫応答経路。cGAS(環状GMP-AMP合成酵素)が細胞質DNAを検出すると、STING(インターフェロン遺伝子刺激因子)を活性化し、I型インターフェロンや炎症性サイトカインの産生を誘導する。染色体不安定性や細胞老化と関連している。

論文情報
タイトル:Aging-dependent reduction of KAT7/HBO1 activity impairs imMKCL-based platelet production by promoting immune properties
DOI:10.1016/j.stemcr.2025.102714

  • 図:KAT7 は「細胞増殖」と「免疫制御」をつなぐ重要因子であり、iPS細胞由来血小板の産生品質のカギとなる

    図:KAT7 は「細胞増殖」と「免疫制御」をつなぐ重要因子であり、iPS細胞由来血小板の産生品質のカギとなる