超小型衛星 NinjaSat が異常に短いX線バースト周期を発見 ―“元祖クロックバースター”の時計に異変―
2025年10月24日
研究・産学連携
【本研究成果のポイント】
1.キューブサット(1)X線衛星「NinjaSat(ニンジャサット)」(2)を用いて、決まった時間間隔で規則正しくX線バースト(3)を起こすX線連星系(4)であるクロックバースター(5)GS 1826-238を観測。この天体のこれまでの最短バースト繰り返し時間(再帰時間)である約3時間よりも大幅に短い約6時間の再帰時間を発見することに成功。
2.今回得られた短い再帰時間は、従来の理論モデルでは説明できず、そのさらなる精緻化を促すものである。今後、X線バーストの点火条件の理解を一層前進させ、中性子星表面での核反応や宇宙における多様な元素合成の理解を深めることが期待される。
【概要】
広島大学大学院先進理工系科学研究科の武田朋志日本学術振興会特別研究員(理化学研究所(理研)開拓研究所玉川高エネルギー宇宙物理研究室客員研究員)、高橋弘充准教授、理研開拓研究所玉川高エネルギー宇宙物理研究室の玉川徹主任研究員、長瀧天体ビッグバン研究室の土肥明基礎科学特別研究員、京都大学大学院理学研究科物理学・宇宙学専攻の榎戸輝揚准教授、千葉大学ハドロン宇宙国際研究センターの岩切渉助教らの国際共同研究グループは、理研が主導するキューブサットX線衛星「NinjaSat(ニンジャサット)」を用いて、X線バーストを決まった時間間隔で起こすX線連星系(クロックバースター)を観測し、この天体の観測史上最も短い1.6時間のバースト繰り返し時間(再帰時間)を発見しました。今回観測したGS 1826-238はこれまでに7天体しか見つかっていないクロックバースターの中でも最初に発見された “元祖クロックバースター”であり、最短のバースト再帰時間は約3時間でした。バーストの再帰時間は、連星系を成す恒星から中性子星(6)に降り積もるガスの降着速度や組成、中性子星の質量・半径に依存することが、これまでの研究からわかっています。今回観測された短い再帰時間は、従来考えられてきた「中性子星表面全体への一様な降着」では説明できず、「一時的な局所的降着」もしくは「中性子星内部の高温化」といった、これまでほとんど考慮されてこなかった効果が働いている可能性を示唆しており、既存の理論モデルのさらなる精緻化を促すものです。
【用語解説】
(1) キューブサット(CubeSat)
10cm×10cm×10cmを一つのユニット(1U)とした、超小型衛星の規格の一つ。ここ10年ほど、世界的に宇宙の商業利用が進んだことで、キューブサット規格の地球観測衛星や通信衛星などが、以前と比べ安価に大量に打ち上げられている。
(2) X線衛星NinjaSat(ニンジャサット)
日本初の超小型X線汎用衛星。6Uキューブサット。2023年11月11日に米国のヴァンデンバーグ宇宙基地にて、SpaceX社により高度530kmの太陽同期軌道上に打ち上げられた。大きさは10cm×20cm×30cm程度、重さは8kgである。主検出器として、非撮像型のガスX線検出器を2台搭載している。
(3) X線バースト
中性子星と太陽よりも軽い恒星から成る連星系((4)参照)で、恒星からのガスが中性子星の表面に降り積もり、臨界状態に達すると発生する核融合爆発のことである。中性子星の表面の外側には水素とヘリウムの層があり、より深い層には炭素が存在している。
(4) X線連星系
連星系は二つの星が互いの周りを回っている状態を表す。そのうちの一つがブラックホールや中性子星の場合、ブラックホール連星、中性子星連星のように表現される。
(5) クロックバースター
何らかの特定の条件を満たした場合、爆発の時間間隔が一定になるX 線バーストの一種。今回観測したGS 1826-238 を含めて、7天体のみが知られている。なぜ爆発の時間間隔が一定になるのかは、十分に解明されていない。
-
X線衛星NinjaSat(ニンジャサット)