令和7年度千葉大学卒業式、大学院修了式・学位記授与式 学長告辞(和訳)

秋の気配が少しずつ感じられ、キャンパスの木々をやさしい風が通り抜ける季節となりました。学士、専門職、修士、そして博士の学位を授与される皆さん、誠におめでとうございます。教職員を代表して、心よりお祝い申し上げます。ここに至るまでの努力と成長を称えるとともに、長きにわたり支えてこられたご家族や関係者の皆さまに、深く敬意と感謝を表します。

千葉大学は、「つねに、より高きものをめざして」の理念のもと、高度な専門知識と倫理観を基盤に、自ら考え、行動し、グローバルに活躍できる人材の育成をめざしてきました。皆さんは学びを通じて専門性を磨き、課外活動や多様な交流の中で人間的にも大きく成長されました。どうか本日を学びの終着点ではなく、新たな出発点としてください。

卒業生の皆さんにとっては、2020年4月に本学が始めた「グローバル人材育成ENGINEプラン」の柱の一つ、「全員留学」も新しい挑戦であったと思います。当初はコロナ禍のため、オンラインでしたが、2022年度は1182名、23年度は2215名、そして、24年度は約2800名と、多くの皆さんが現地留学を体験されました。実際に海外で生活した方はもちろん、状況に応じてオンライン留学を活用された方も、これを機に異なる価値観に触れ、あるいはその中に身を置き、現地の人々とともに学ぶことができたことは、大きな財産になったのではないかと思います。これからもぜひ、挑戦を続けて、自らの世界を広げていってほしいと願います。

本年6月には、日本経済新聞に掲載された「企業人事に聞いた卒業生が活躍している大学ランキング」において、行動力・コミュニケーション能力・知力/思考力・成長力の観点から千葉大学の卒業生が高く評価され、とりわけ「採用を増やしたい理由」として、柔軟性や発想力を挙げる声が多く示されました。これは、「課題解決力を養い、社会に役立つ人材を輩出する」という本学の教育方針が実社会で確かな価値として認められた証しです。日頃から研鑽を重ねる学生、懸命に指導・支援を続ける教職員、そして各現場で信頼を築いてきた卒業生一人ひとりの努力の結晶として、ここに深く敬意と感謝を表します。

皆さんが歩むこれからの社会は、少子高齢化や人口減少、頻発する自然災害、地政学的緊張、環境・エネルギー・気候の課題など、容易ならざる現実に直面しています。しかし、だからこそ新しい解決の道が拓かれます。AIやロボティクス、デジタル技術の進展は、これまでとは異なるアプローチでの社会課題解決を可能にしつつあります。課題の中にこそ研究の種やビジネスの機会が潜んでいることを忘れないでください。千葉大学が新たなビジョンとして掲げる「生命・環境・社会」の3つの柱を通じて知を統合する皆さんの柔軟性と発想力は、現場での信頼と新たな価値創出へと結びつきます。

私自身が日ごろから意思決定の場で心がけてきたのは、「良質な情報」を集め、対話を重ね、迅速に判断することです。情報が氾濫する時代だからこそ、複数の信頼できる情報源に当たり、専門家の見解に耳を傾け、自らの頭で考える姿勢が重要です。皆さんも、未知の課題に直面したとき、前例の有無ではなく「価値はどこにあるか」「誰のための解か」を問い直し、仲間と仮説を立て、検証し、やり切る——その循環を自ら回し続けてください。

そして、今後、個人的な判断に迷う場面に出会ったときには、どうか単に個人の利得だけでなく、より社会のため、日本のために資する選択は何かを、長い時間軸で自らに問い直してほしいと思います。公益にかなう判断は、必ずや皆さん自身の誇りと幸福につながります。母校である千葉大学は、世界の課題解決に挑む皆さんの背中を、これからも全力で押し続けます。

卒業生・修了生の皆さんの前途が、実り多く、しなやかで、そして希望に満ちたものであることを心から祈念します。ご卒業、誠におめでとうございます。

令和7年9月26日

千葉大学長 横手幸太郎