令和6年度千葉大学卒業式、大学院修了式・学位記授与式 学長告辞(和訳)
暑かった夏も終わり、秋の気配を感じる季節となりました。千葉大学で必要とされる全課程を修了し、博士、修士、専門職、そして学士の学位を授与された卒業生の皆さん、晴れてこの日を迎えられましたことに、教職員を代表して心よりお祝い申し上げます。そして、これまでの長きにわたり、皆さんを支えてこられたご家族や関係の皆様に、謹んでお慶びを申し上げます。
千葉大学は、「つねに、より高きものをめざして」の理念のもと、高度な専門知識と倫理観を基礎に、自ら考え、行動し、グローバル社会のリーダーとなる人材の育成を目指しています。また、千葉大学に関係するすべての方の人権が尊重され、差別されることなく、安心して個性と能力を発揮できる大学コミュニティの形成と発展を目指し、通称C-DEIB推進宣言を行い、HPに公開しています。Diversity多様性、 Equity公正性、Inclusion包摂性、Belonging帰属感を大切にし、誰もが自分らしさを追求でき、人を豊かにする魅力あふれる大学にしていきたいと思っています。そしてこの取組を社会に広げて、日本全体の発展につなげていきたいと思います。
卒業生・修了生の皆さんは、これまで千葉大学で勉学に励まれ、ご自身の専門性を磨かれ、課外活動や友人との交流などを通じて、精神的にも大きく成長されたことと思います。
ただ、想定外のこともありましたね。皆さんは大学生活の一部あるいは大半を、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの中で過ごされたものと思います。特にコロナ禍の最初の1~2年は生活様式が大きく変わり、対面での講義や実習もままなりませんでした。社会生活における制約も多く、思い描いていた期待とは異なる毎日に、戸惑いもあったと推察します。しかし、想定外の状況に直面しつつ、学習や研究の目標を達成したその経験は、乗り越えた苦労の分だけ、皆さんがこれからの人生を歩んでいく上での力になるものと確信します。
他方、海外へ目を向けると、ウクライナやガザ地区など、国家・民族間の争いが絶えず、日本国内で日々享受している平和が、決して当たり前ではないことを思い知らされます。遠い世界の話と思いがちですが、その影響は、物価高騰や原油高のような形で、我々の日常生活にも及んでいます。台湾有事の勃発も懸念されています。さらに、このところ毎年の猛暑や豪雨災害など、まさに環境破壊や温暖化、災害の頻発・多様化など、地球規模で解決すべき課題が、身近に数多く存在することを示しています。
これらの諸課題を前にして、私たち一人ひとりの人間は無力に見えるかも知れません。しかし、決してそうではないと思います。みんなが、周りの人に対して思いやりを持ち、よく話し合い、これまで学んできたことを最大限に活かして、目の前の一つひとつの課題に向き合って解決を目指していく。その地道な積み重ねが、各々の生活を豊かにし、やがて社会を良い方向へ導くと信じています。そして、そのような積み重ねを行えることこそが、リーダーの資質なのだと私は思います。
現在、日本では、少子高齢化と人口減少が、将来へ向けての最も大きな課題の一つと認識されています。ところが、今から50年前、私が子供の頃は、逆に「人口が増え続けて食料が足りなくなる。」あるいは「このまま石油を掘り続けたら、あと30年で枯渇する。」などの懸念がまことしやかに語られ、また、工場からの排気・排水による大気や河川の汚染が深刻な問題となるなど、社会に暗い影を落としていたのです。幸い、そのような悲観的予測は現実とはなっておらず、生活の便利さや衛生環境は、私の幼少期に比べてはるかに良くなりました。いつの時代にも課題はありますが、私たち人間は、英知を集結し、真摯に向き合うことで、それらを解決しうるのだと、私は信じたいです。皆さんもそう思いませんか?
今後の政策や社会変革によって、少子化問題が解決できれば素晴らしいですが、たとえ人口が減っても、AIに代表される新たなテクノロジーの応用は、作業の効率化と生産性の向上をもたらし、むしろ一人当たりの生活をより豊かにするかもしれません。すなわち、「課題」を解決する前向きな取り組みの中には、新たな研究の種やビジネスチャンスが隠れていると思うのです。
本日卒業される皆さんには、先の見えにくい社会を生き抜いていく上で、私が心がけてきたことを共有したいと思います。
それは、課題に直面した際、できるだけ多くの「良質な情報」を集め、それに基づいてよく考え、決断をするというプロセスです。今は、インターネットを含め、情報が氾濫していますが、そのすべてが正しい訳ではありません。
皆さんが千葉大学へ入学されたころ、私は、附属病院の院長を務めていました。パンデミックの初期には、新型コロナウイルスの正体や対処法もよく分かっておらず、多種多様な情報が社会に溢れていました。その中で、病院の患者さんと職員を守るためには、専門家の意見や信頼性の高い科学論文などの知見を参考に、日々の意思決定を迅速に行うことが何より重要でした。皆さんも課題に直面した時は、限られた意見に左右されることなく、複数の情報源に当たり、経験豊富な人の話を聞き、慎重に見極め、判断するというプロセスを大切にしてほしいと思います。
千葉大学で学ばれたことを基盤に、皆さんが、未来の明るい社会の担い手として、一度しかない人生を悔いなく進まれることを心から願っています。そして、我々教職員一同も、千葉大学が、卒業生・修了生の皆さんにとって誇りに思える大学であり続けられるよう全力を尽くすことをここにお約束して、告辞といたします。ご卒業と学位の取得、誠におめでとうございます。
令和6年9月27日
千葉大学長 横手幸太郎