令和4年度千葉大学卒業式 来賓講話

  • 来賓講話

只今ご紹介を頂きました香藤でございます。本日の卒業に際しまして一言お祝いを申し上げます。

本日は学生に加え沢山の父兄の方々が列席されておりますが、先ずはその皆様に感謝とお祝いを申し上げます。学生諸君は本日めでたく卒業いたしましたが、ここまで学生の皆様を温かく見守りサポートされてまいりましたご苦労は本日をもって卒業でございます。きっとほっとさていると同時に更なる活躍を期待されているものと思いますが、先ずはおめでとうございます。

しかしながら、親として子を思う心には卒業は無いと思いますので、これからも陰に陽に卒業生のさらなる発展と成長を温かく見守っていただくようお願い申し上げます。

学生の皆様はこの四年間、千葉大学の学生として自信と誇りをもって過ごされたと思いますが、パンデミックをはじめ何かと予期せぬ事態にも直面したものと思います。

しかしながら、そのような困難を乗り越えて卒業されたことは、これから自己責任と結果責任を求められる立場になる皆様に、一種の自信をもたらすものと思います。

皆様がこれから活躍する社会が、平和と協調性に富み、将来ビジョンが明確に確立されているのであればいいのですが、残念ながら現実は非常に混乱している社会です。

その一部の例として、
 -政治の世界では、DemocracyとAutocracyに基づく価値観の衝突と競争、またそれに基づく軍事衝突が起こっています。結果として、グローバライゼーション価値観がリージョナライゼーションに変り、経済秩序の世界再編成が行われる可能性が大なる情勢です。
 ―また、過去40年近く続いたデフレーションが、インフレーション又はスタグフレーションに陥るかもしれない未知の世界に突入しております。結果、富の偏在の拡大が進み、社会の分断と社会不安をもたらす恐れもでてきております。
 ―社会面に於いては、加速度的に進む少子高齢化はとどまる様子はありません。これは、毎年千葉市規模の町が無くなる程の人口萎縮を意味し、2040年には約4千万人が高齢者となる老人大国となり、現状の社会制度がサステイナブルではなくなることを意味しております。
 ―環境面では地球温暖化が進み、この対応策の必要性を認識しながらもその具体策には一貫性を欠きその道筋は未だ不明確です。たとえばEV車の普及が進んでいますが、そこで使う電気はほとんどが化石燃料で発電しWell-to-WheelベースではどこまでCO2の削減効果の実効性があるのかは、未だ検証が求められている、等々です。

このような不安定な時代には次代を担うみなさまはどの様に対応すべきなのでしょうか。 どちらの方向に進むかがはっきりしない場合、混乱の中に埋没することなく、変化のターニングポイントはなんであるか、又そのトリガーとなるものが何であるかをいち早く発見しそれに備えることが必要となります。

それには自分自身のアンテナを広く張り、有益な情報をいち早く取り込むことが大事です。

ソーシャルメディア・プラットフォームが進んだ今の時代、情報の量は多く、拡散のスピードは早くまた広範囲です。しかし、情報の中には粉飾された情報も沢山あり、フィードバックループの過程で噓があたかも事実のごとく歪曲化されるケースもあります。

その結果、外から入って来る情報によっては、我々の判断・行動が大きく影響を受けるケースも多々あり得ます。

したがって、我々は情報をいち早く選別し、適切な判断に結びつくように努力する必要があります。

情報の種類には大別すると三つの情報があります。

一つ目は、misinformationです。すなわち、間違った情報です。これは特定の意図はなく、単純に間違った情報です。悪意はない情報ですが、結果的には好ましくないことを引き起こすことがあります。とりわけ伝達されてくる情報にはこの種のものがたくさんあります。情報源を明確にし、その信頼性を判断したうえでその処理にあたることが大事になります。

二つ目は、disinformationです。これはある悪意または意図をもって情報を出し、特定の目的を達成しようとする情報です。社会混乱時、戦時下にはこの手の情報が氾濫してきますが、我々の日常生活の周りにも沢山あります。その一例として最近話題になっているステマ、すなわちStealth Marketingと言われているものです。簡単に言えば顧客誘導情報であり、やらせです。

三つ目はFactual Information です。これは事実に基づいて発信されるものですが、客観性はあるものの、受けての理解度によってその意味は変わってきます。一つの例として、日本の自動車メーカーとエンターテインメント会社がEV車製造で連携するとのニュースがありました。これは報道的には画期的な出来事として取り上げられていました。

しかしこれは本当にそうでしょうか。EV車のコストの40から50パーセントはバッテリーだといわれています。そのバッテリーの生産機材であるコバルト、ニッケルそれにもましてグラファイトの供給についてはなにも述べられていません。実は、その多くは、特にグラファイトの供給は特定の国が圧倒的に支配しており、サプライチェーンは石油、LNG以上に脆弱性が高いのです。

経済安全保証は大丈夫なのでしょうか、流通安全保障の確保はできるのでしょうか。

以上のごとく、事実に基づくニュースから何を受け取るかは、受け手の度量により変わってきます。

度量を高める一番の方法は、常に自分自身で"なぜか"と問いかける習慣を身に付けることです。

則ち、セルフラーニングです。

千葉大学では近年セルフラーニングを強化してまいりました。卒業生の皆様は在学時よりその習慣を自然と身につけており、これから羽ばたく準備は十分に出来ていると思います。

本日は卒業と同時に新しい挑戦のコメンスメントです。

千葉大学卒業生の自信とプライドを内に秘め、みなさまが悠々と社会のリーダーとして活躍されることを祈念しましてお祝いのことばとします。

令和5年3月23日
千葉大学経営協議会委員
香藤 繁常